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ハンベエはイザベラに視線を向けた。

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ハンベエはイザベラに視線を向けた。

ハンベエはイザベラに視線を向けた。何も言わない。仏頂面のままである。黙って、イザベラの目を見ている。イザベラはハンベエの視線を受け止め、暫く見つめ返していたが、「ふんっ。」と挑発的な笑みを浮かべた。そして、やや嘲りを交えた口調でハンベエに言った。「無いのかい、王女を脱出させる知恵は。」「御名答。俺は暴れるしか能が無いみたいだ。」ハンベエはイザベラの挑発的口調に反発するでもなく、屈託のない様子で答えた。さりとて、焦っている様子も困っている風情もない。「仕方ないね。エレナはあたしが守る。あたしがタゴロロームまで逃がすよ。」「うん、イザベラ。お前ならできるよな。全く頼りになるぜ。」ハンベエはにこりと笑った。この傲岸な男が今ま生髮で見せた事もない素直な表情である。いや待て、そうでもないかも知れない。師のフデンから免許皆伝を告げられた場面ではこんな殊勝な顔付きをしていたようにも思える。ロキに出会ってからは自信たっぷりのふてぶてしい顔しか見せていなかったが、この時、イザベラに見せたハンベエの表情は謙虚さが滲み出しているかのようなものであった。ロキはそのハンベエの表情にびっくりして、ただ呆然と見つめていた。「エレナ、あたしと一緒に脱出するで、文句ないよね。元はアンタを殺そうとしたアタシだけど、今はどうあっても助けたいんだ。あたしゃ今やエレナの一番の・・・いや、ロキに続いて二番目の味方だからさ。」「でも、迷惑では無いのですか。」「迷惑だって・・・とんでもない。あのふざけた悪党どもに一泡吹かせられると思ったら、心が躍ってしょうがないよ。もっとも、アタシの方が一枚上手の悪党だけどね。格の違いを思い知らせてやるよ。」「おっとっと、俺が言いそうなセリフをイザベラが。」ハンベエがイザベラの勇ましい啖呵に苦笑する。「ふん、ハンベエ、今更ながらの話だよ。あんたとアタシは似た者同士、同じ穴のムジナって事さ。で、あんたはどうするのさ。」「さっきも言ったろう。俺にできるのは暴れる事くらいだ。大騒動を起こしてやる。が、その前に一細工・・・。」王宮内では、ステルポイジャン配下の王宮警備隊が我が物顔にエレナの行方を捜し回っていた。ラシャレーが使っていたサイレント・キッチンの兵士達もいたはずであるが、息を潜めているのか、宰相共々既に王宮を脱出したのか全く姿が見えないようだ。ハンベエに脅されて、一旦は客室から立ち去った兵士達だが、あちこち捜し回って、結局又舞い戻って来た。ハンベエに殴られて昏倒した兵士は除く。そいつはまだ意識が戻らないようだ。何処かの医務室にでもいるのだろう。戻ったものの、あの喧嘩っ早い剣呑な男が今度こそ本当に怒り出して、刀を振り回すのではないかと思うと、部屋を改めるために声を掛ける踏ん切りがつかないでいた。ハンベエのいる客室の前の廊下では、先程より人数の多い十数名の兵士が集まって顔を見合わせていた。さて、全く御免被りたい役目だが、これも仕方の無い事。どうか猛獣の虫の居どころが納まっていますようにと、頭株の兵士が腰が引けつつも一歩踏み出したところ、扉の方が向こうから開いた。

「・・・。」

兵士達は思わずたじろいで一歩後ろに退いた。尻餅をつきそうになった奴もいる。随分と意気地のない話であるが、ハンベエのフナジマ広場百人斬りの武勇伝はゲッソリナの兵士達の間では既に語り草であり、ついでにタゴロロームでの大暴れ、バンケルク軍との闘いも伝わっていた。暴れ出したら、何人犠牲者が出るか分からない物騒極まりない人物として、貴族や士官連中はともかく、末端の兵士達には鬼神や怪物のような評判となっていた。扉の向こうにはハンベエが立っていた。無表情である。ゆらり、っといった感じで廊下に歩み出て来た。

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